退職
死ぬか辞めるかだと思った。
死ぬか辞めるかしなくても、どうせクビになるのだろうから、傷が浅いうちに辞めようと思った。
遅刻の常態化。毎日責められることなく続いたソレ。何ヶ月も続いてやっと声をかけられ、改善がなければそれなりの対応が必要だと言われた。
それで「じゃぁがんばろう」と思えたかといえば正反対で、「じゃぁ、もう辞めた方がいいな」と思ったし、翌日は、間に合う時間に起きられたにも関わらず、玄関先で足がすくんで泣きくずれて、部屋から出られなくなった。
ああ、私はもうそれだけそこが嫌いなのだ。行きたくないのだ。
赴任したばかりの頃は、遅刻などしていなかった。
初めての一人暮らしで、初めての職場で、緊張感もある中、毎朝余裕のある時間に出社して、「おはようございます」と声を出した。
それができなくなったのはいつからか……
朝余裕のある時間に起きられなくなり、朝ご飯の量を減らしたり、食べ方をかえることで時間を短くして帳尻を合わせた。
それでも足りないほどに起きるのが遅くなり、「理由があって」遅刻していたのが、「その理由」がない日でも常態化していった。
何ヶ月もそれが続くまで、誰にもとがめられなかった。
「遅刻しました。すみません」とも言えなかった。
ちゃんとそう言えたら、「遅刻の常態化」なんて起きなかったかもしれない。
たぶん、起きなかったんじゃないかな、と思う。
「実は昨日の夜、腹痛が酷くて寝付けなくて、朝起きられなかったんです」
そんな風に話せる相手がいなかった。
作れなかった。
クラスにとけこめない小学生か?
そう思う。それが合ってるんじゃないかって思う。
飲み会や、ちょっとしたきっかけで話ができることもあったけれど、「よく話ができる」相手はいなかった。
話にいけなかった。
隣の席の人は、仕事で直接の上司になるから、質問や確認での会話はしたけれど、雑談はほとんどしなかった。
後ろの席の人達は、その人達同士で仲がよくて、たまに話に加われることもあったけれど、基本的には、羨ましいと思ってストレスになるばかりだった。
- 最終更新:2017-02-04 10:10:24